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IT業界で働くエンジニアの方や、これからエンジニアを目指す方の中には、「SESって聞いたことはあるけど、派遣とどう違うの?」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。実は、“客先常駐”という点ではどちらも似たように見えますが、その根底にある契約形態やキャリア形成の仕組みが大きく異なります。今回は、SESと派遣の違いをなるべくわかりやすく解説しつつ、特にSESを選択することで得られるメリットや、そこで広がるキャリアの可能性について深掘りしてみたいと思います。
そもそも「SES」と「派遣」は何が違うのか
「SES(システムエンジニアリングサービス)」と「派遣」は、どちらもエンジニアが自分の所属元とは別の企業に行って作業を行うという点では似ています。しかし、一歩踏み込んでみると、仕事上の指示系統や契約期間、業務範囲など、さまざまな部分に違いがあります。
たとえば、派遣の場合はエンジニアと派遣先企業が直接雇用契約を結ぶわけではなく、派遣会社を通して派遣先企業へ出向く形です。そして、派遣先企業からの指示をそのまま受けて働く、いわゆる「派遣スタッフ」という扱いになります。一方で、SESはエンジニアが自分の所属するSES企業と雇用契約を結び、SES企業がお客様(クライアント企業)へ技術サービスを提供する仕組みです。エンジニアは“SES企業の社員”としてクライアント企業で働くため、指示系統や契約上の主従関係はSES企業との間に成り立ちます。ここが実はとても大きな違いです。
派遣エンジニアは契約期間が法律で最長3年と定められているため、長期的に同じ企業で働きづらい側面があります。これに対して、SESエンジニアはあくまでSES企業の社員であり、プロジェクトが終了しても引き続きSES企業に在籍したまま別のクライアント先に行くことができます。こうした仕組みが、スキルの積み上げ方や、キャリアの描き方に大きく影響してくるのです。
SESだからこそ得られる豊富なプロジェクト経験
SES最大の特徴のひとつが、多様なプロジェクトに参加できるチャンスが多いことです。派遣の場合、ひとつの企業や部署で長期的に業務に携わるケースが多く、業務内容が限定されがちです。もちろん、その企業に必要とされる能力を高めることはできますが、どうしても技術スタックや経験する工程が偏りやすいというデメリットもあります。
それに対してSESでは、案件がひとつ終わると新たに別のプロジェクトに参画する機会があります。業界や業務内容、採用されるテクノロジーも変わりやすいので、たとえば銀行のシステム開発に携わった数カ月後にはECサイトのリニューアルに参画するといった形で、多様な経験を積むことが可能です。Javaばかり使っていたと思ったら、次のプロジェクトではPythonでAI関連の実装を行う、あるいはクラウド移行のコンサルをやる、といった具合に、自分の中にどんどん新しいスキルセットを蓄積していけます。
こうしたプロジェクト経験の広さは、エンジニアとしての市場価値を高める上でも大きな武器になります。いろいろな業種や技術領域を体感することで、「自分はフロントエンドが好き」「インフラまわりを突き詰めたい」などの得意領域や方向性を自然と見つけやすくなるでしょう。
雇用が安定しているからこそ、キャリアに集中できる
「SESは客先常駐の働き方だから、なんとなく不安定なんじゃないか」と感じる方もいるかもしれません。ですが、実際は派遣よりも雇用の安定性が高いと言われることが多いです。なぜなら、SES企業とエンジニアが直接雇用契約を結んでいるため、プロジェクトが終わっても次の案件を探す間も給与が出るところが多いからです。
派遣の場合は、契約期間が終了してしまうと、次の派遣先を見つけるまで空白期間が生まれ、その間の収入面も不安定になりがちです。一方、SES企業に所属していれば、会社との雇用関係は続いたまま別のプロジェクトを探すことになるので、「仕事が途切れてしまったらどうしよう」という心配は比較的少なくて済みます。もちろん、SES企業によっては「待機」期間中の給与保障がなかったり、一部しか支払われないケースもありますが、雇用関係そのものが切れるリスクは派遣よりも低いと考えられます。
この安定性があるからこそ、エンジニアは「次の案件までに勉強をしておこう」「新しくリリースされたフレームワークを試してみよう」といった形で、落ち着いてスキルアップに取り組むことができます。転職活動を意識する前に、まずは社内のエンジニア同士で情報交換する余裕があるのも魅力です。
スキルアップを重視するSES企業が多い理由
SES企業は「エンジニア自身のスキルアップ」を大事にしているところが少なくありません。なぜなら、SESではエンジニアの技術力そのものが企業のビジネスモデルの根幹になるからです。クライアントへ提供できる人材のレベルを高めることで、より高度な案件を請け負えるようになり、その結果エンジニアも企業も共に成長していけるわけです。
具体的には、資格取得のための受験費用を負担してくれたり、外部の研修やセミナーへの参加を推奨してくれたりする企業もあります。社内勉強会を定期的に開催し、新しい言語やツールの勉強をチームで行うケースも珍しくありません。そうした社内環境があれば、同僚や先輩エンジニアからのフィードバックをもらいながら学べるので、一人で独学するよりも遥かに効率が上がります。
また、プロジェクトベースで動くことが多いので、実務を通じて最新技術に触れる機会も得やすいでしょう。自分の興味ある分野の案件を社内で希望し、それにチャレンジできる環境があるのなら、意欲次第でどんどんスキルを伸ばせるはずです。自ら手を挙げて、「次はAWSを使うプロジェクトをやってみたい」と言えば、そういった案件にマッチングしてもらえることもあります。
SESで広がるキャリアアップの可能性
SESで働き続けると、自然とさまざまな企業の現場を経験することになります。これは一見、「コロコロ変わるのは大変では?」と思われるかもしれませんが、裏を返せばエンジニアとしての視野が大幅に広がるという意味でもあります。開発手法、使用するツール、人々のコミュニケーションの仕方など、プロジェクトごとに異なるため、短期間で多くのノウハウを吸収できるのは大きな魅力です。
さらに、そこで得た経験と実績を評価されることで、クライアント企業から「うちに正社員として来てくれないか」というオファーをもらえるケースもあります。これを機に転職して、社内SEやより上流工程を担当する立場にスムーズにステップアップする人も少なくありません。また、「この分野ならフリーランスとしても食べていけるかも」と判断し、独立を目指す人もいます。
大切なのは、SESという働き方がキャリアを狭めるどころか、むしろ柔軟にキャリアを広げるチャンスを多く生み出してくれるという点です。要件定義から保守運用まで一通りの工程を経験し、自分の専門性を見つけたり、マネジメントスキルを高めたりと、多彩な選択肢を自らの力で作り上げることができるのです。
最後に:長期的視点でSESを検討してみよう
派遣とSESは、どちらも客先で働くことが多い形態ですが、エンジニアにとっての環境や将来設計には大きな差があります。派遣は短期間で同じ企業に留まれないなど、やや流動的な側面があるのに対して、SESはプロジェクトが変わっても企業への所属が変わらないため、雇用の安定性が比較的高いとされています。また、多様な案件を経験できることでスキルの幅を広げやすく、自分のキャリアをコントロールしやすいのも魅力です。
「もっと知識やスキルを深めたい」「いろいろな開発手法や技術スタックを試してみたい」「安定しながらもキャリアアップを目指したい」──そんな思いを持っているなら、SES企業への就職は大いに検討の価値があります。特に、研修制度や勉強会、資格取得サポートなどが充実している企業を選べば、より一層成長環境が整っているでしょう。
もちろん、SES企業と一口に言っても、その規模や案件の種類、支援制度の内容には大きな違いがあります。自分の希望するキャリアや得意分野をハッキリさせたうえで、それに合った企業を慎重に選ぶことが成功のカギです。長期的視点でキャリアを考え、自分に合った働き方を見つけることで、エンジニアとしての成長曲線をしっかり描いていけるようになるはずです。もし皆さんがSESと派遣で迷っているのなら、ぜひこうしたポイントを参考にしていただき、SESのメリットを存分に活かせる環境を探してみてください。きっと、思い描いている理想のキャリアに近づく一歩になることでしょう。